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「牝馬の国枝」生んだメンタル調教の手腕 英国留学が基礎「いいことを習慣付ければ…」

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20年12月、9冠を達成したアーモンドアイのゼッケンを手にする国枝師
 【さらば伯楽 国枝栄師 栄翁が馬】3月3日付で定年を迎える国枝栄調教師(70)の業績を振り返る連載「栄翁が馬」。3回目は「牝馬の国枝」に焦点を当てた。JRA・G1通算22勝のうち17勝を挙げた強い牝馬づくりの秘けつとは…。

 ラストウイークに大挙14頭出し(中山8頭、阪神2頭、小倉4頭)の攻勢をかける国枝厩舎に足を向けると、洗い場からスタッフの明るい笑い声が聞こえてくる。いつもと変わらない雰囲気。春のうららかな陽気に包まれた厩舎棟に穏やかな空気が流れる。「国枝厩舎の牝馬が走るのは、こんなリラックスした雰囲気のためです。人がリラックスしていれば馬もリラックスできる。特に牝馬は敏感ですから厩舎の空気が伝わるんです」。国枝厩舎で調教助手を5年間務めた宮田師はこう語る。

 JRA・G1通算22勝のうち17勝は牝馬がもたらした。アパパネ、アーモンドアイの3冠牝馬の他にもピンクカメオ、アカイトリノムスメ、サークルオブライフステレンボッシュ。この10年に挙げたG1・11勝は全て牝馬だ。「“牡馬の国枝”と呼ばれたかったよ。牡馬のクラシックはとうとう一つも獲れなかったからなあ」と本人は自虐ネタで笑いを誘うが、フィジカルよりメンタルを重視した調教がデリケートな牝馬にフィットしたのだろう。

 逃げ場のない馬を過度に追い込まない。リフレッシュを図ってストレスを解消させる。「英国の厩舎で研修していなければ今の自分はなかった」という、調教助手時代の英国留学で学んだメンタル調教を開業時から実践してきた。馬場運動後の日光浴、砂浴び、草はみ、洗い場でのスキンシップ、そして、馬房での十分な休養と睡眠…。今、休職者が激増する企業社会でクローズアップされているメンタルブレーク(メンブレ)防止法の馬版である。

 「いいことを習慣付ければ馬は悪くならないものだ。英国ではイライラした馬をほとんど見なかったよ」

 感情の起伏が激しかったアーモンドアイがメンブレせずに競走生活を全うできたのも“牝馬の国枝”の手腕である。「希代の名女優だった。本番では物凄い集中力で燃え尽きるまで走るけど、プライドが高くて、気が入ると手がつけられない。秋華賞の装鞍所では突然スイッチが入って、4人がかりで汗だくになって鞍を着けたんだよ」。名女優のメンタルを追い込まなかったからG1連覇で大団円を迎えられたのだろう。

 「アーモンドアイはダービーに挑戦させたかったけど、追い込まないことが一番。牡馬はクラシックを狙ってもう少し攻めていってもよかったかなという気がしないでもないが、目の色変えてやってもいいことない。これで良しとしないと」。国枝師が残り1週で別れを告げる厩舎棟には普段と変わりない穏やかな空気が流れていた。

 ◇国枝 栄(くにえだ・さかえ)1955年(昭30)4月14日生まれ、岐阜県北方町出身の70歳。東京農工大卒。78年、美浦・山崎彰義厩舎の調教助手に。89年、調教師免許取得、90年開業。99年スプリンターズS(ブラックホーク)でG1初勝利。07年にマツリダゴッホで有馬記念制覇。10年アパパネ、18年アーモンドアイで牝馬3冠達成。JRA通算9516戦1121勝(24日現在)。
(C)スポーツニッポン