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【追憶の中山記念】11年ヴィクトワールピサ 今思えば…日本競馬にとって大きな意味を持った壮行戦

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11年中山記念を圧勝したヴィクトワールピサ
 何と言っても前年の有馬記念優勝馬だ。ヴィクトワールピサが勝つだろう。そう思っていたファンは多かったはずだ。しかし、グランプリホースは想像のはるか上を行く会心の走りを披露した。

 4コーナー。ヴィクトワールピサは1頭だけ別のレースをしているかのように大外を回った。集団とは全くスピードが違う。あっという間に先団各馬をかわし、逃げを打ったキャプテントゥーレに迫った。

 「もう来たのか」。キャプテントゥーレの小牧太が左ムチを連打して抵抗する。だが、それをあざ笑うかのようにヴィクトワールピサは楽々とかわしていった。

 坂上ではもう安全圏。ミルコ・デムーロは馬を追うのをやめ、左拳を早々と握った。「よくやった」。馬の首をポンと叩いたところがゴールだった。

 「ベリーナイス。手応えは十分で最後もいい脚を使ってくれたね」。デムーロは笑顔を見せた。

 2500メートルの有馬記念を制した馬が明け4歳初戦に選んだのは1800メートルの中山記念。角居勝彦師はその理由を明かした。

 「このコースはスタートしてから出して行く必要がある。ドバイの2000メートルに備えて速い流れを経験させたかった」。そう、この後に控えるドバイワールドCを見据えての選択だった。

 だが、馬は半馬身ほど出遅れ、1コーナーでは後方から3番手。もくろみ通りにはならなかった。「スタートしてついていけなかった。馬の方がこのコースをよく知っているということかな」。名トレーナーは苦笑した。

 「まあ、何にせよホッとした。この後は飛行機での輸送も控えているし、どれくらいのギリギリまで仕上げていいのか難しかった。勝てて良かったですよ」(角居師)

 馬体重は有馬記念と同じ512キロ。隙なく仕上がっていた。ただ、ドバイに向けてお釣りなしというわけにもいかない。結果からいえば、ドバイワールドCも勝つわけで、前哨戦も本番も勝ってみせる角居厩舎の絶妙なさじ加減というのは、今考えても見事というしかない。

 この日の中山には一日中、ゆったりとした空気が流れていた。晴れの良馬場。9Rでは珍名馬ネコパンチが逃げ切り、ほっこりとしたムードが競馬場を包んだ。メーンはグランプリホースが盤石の取り口を見せた。多くのファンが笑顔で競馬場を後にしたのではないか。

 だが、ここから2週間もしないうちに東日本大震災が起こる。人々の心が一気にどん底まで落ち込む中、吉報を届けたのはヴィクトワールピサだった。日本調教馬として初めてドバイワールドCを制した。

 日の丸を手にしたミルコ・デムーロが大泣きしている。日本の危機を知る現地の人々が歓喜の厩舎スタッフに握手を求め、ハグをした。目の前のピンチに立ち向かっていた日本の競馬ファンが、遠い中東のこの風景を見て、どれだけ勇気づけられたことか…。

 中山記念でしっかりと壮行戦をクリアできたことが、ドバイでの歓喜につながったのだ。今思えば、日本競馬にとって本当に大きな意味を持つ中山記念だったのだ。
(C)スポーツニッポン