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【ステイヤーズS】天国から先代も見守るピュアキアンの挑戦

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金沢競馬の白山大賞典に出走したピュアキアン(左)=撮影・平松さとし
 【競馬人生劇場・平松さとし】今週末、中京競馬場でG1チャンピオンズCが行われるが、その前日に中山競馬場で行われるのが、長丁場の名物重賞G2スポーツニッポン賞ステイヤーズSだ。今年も並み居るステイヤーが顔をそろえる中、ひときわ異彩を放つ存在がいる。

 ピュアキアンだ。

 美浦・竹内正洋厩舎に所属する同馬は今回が20戦目。これまでの19戦は全てダート戦で、芝に挑むのはこれが初めてだ。

 同馬のオーナーは鶴見芳子さん。元々の馬主は夫の鶴見清氏だった。芳子さんは、その始まりを静かに振り返る。

 「馬が大好きで“いつかは馬主に”と夢見ていた主人に病気が見つかったのが2009年でした」

 いきなり告げられた深刻な診断。悠長に構えている暇はないと、清氏はすぐに馬主資格を取得した。

 そして初めて迎えた愛馬に、自身の名“清”を英訳した「ピュア」を冠し、ピュアプレジャーと名付けた。11年7月、吉田豊騎手を背にデビューしたその馬は清氏の夢そのものだった。

 その後もピュアソルジャーなど、毎年のように所有馬を送り出した。しかし13年10月、ついに病に力尽きた。67歳だった。

 「最後まで私に対し愚痴ひとつ言わない人でした」

 芳子さんはそう語り、棺には愛馬たちの写真をたくさん入れて送り出すと、遺志を継ぐように馬主となった。

 こうして持ったのが母ピュアプレジャーのピュアキアンだった。同馬は母同様、吉田豊騎手で23年にデビューするといきなり新馬勝ち。その後も着実に力をつけ、今年7月の函館ではマリーンSを制し、さらにJpn3白山大賞典にも挑戦した(6着)。

 そして今回、初めて芝のスポーツニッポン賞ステイヤーズSに挑む。函館にも金沢にも、ピュアキアンが走る場所には必ず駆けつけてきた鶴見芳子オーナーは、もちろん中山へも足を運ぶ予定だ。未知の芝コースへと踏み出すピュアキアン。その挑戦を、きっと清氏も空の上から優しく見守っているに違いない。(フリーライター)
(C)スポーツニッポン