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【追憶のローズS】10年アニメイトバイオ 連日の“デート”で育んだ後藤騎手との信頼感 重賞制覇で結実

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10年ローズSを制したアニメイトバイオ(左)。中は2着ワイルドラズベリー、右は3着エーシンリターンズ
 秋華賞(かつてはエリザベス女王杯)の最終トライアルとして、昔も今も重要な一戦。ホームの利もあって伝統的に関西馬が強いのだが、そんな中で見事にVを射止めた関東馬を紹介したい。

 アニメイトバイオ。新進気鋭、牧光二師の管理馬だった。

 未勝利、サフラン賞を連勝。その後も2着を3度マークし、着々と賞金を積み上げた。勇躍参戦した桜花賞は、まさかの20キロ減で8着。地元東京のオークスでは14キロ馬体を戻し、11番人気ながら4着に食い込んだ。

 秋初戦を迎える前、牧師と、オークスからコンビを組んだ後藤浩輝騎手は秋のプランを立て、アニメイトバイオを栗東に滞在させることを決めた。

 桜花賞では長距離輸送で体重を減らし、思うような競馬にならなかった。秋に戦う予定のローズSは阪神、秋華賞は京都。ともに栗東から当日輸送で運び、ベストのコンディションで競馬をさせるのが狙いだった。

 テーマはもうひとつあった。後藤騎手も栗東に一緒に滞在し、アニメイトバイオを思い通りにゆったりと仕上げる、というものだ。後藤騎手は最寄り駅そばのホテルに連泊し、毎朝、栗東トレセンへと通った。

 後藤騎手とアニメイトバイオ。“2人”だけの時間がゆったりと流れていることが記者席からも分かった。たっぷりと時間をかけて角馬場を周回。「デートしているみたいでしょ、へへへ」。引き揚げてきた後藤騎手は照れ笑いを浮かべた。

 角馬場でまたがりながらアニメイトバイオにいろいろ話しかけていると、後藤騎手は教えてくれた。「人間の言葉を理解しているとは思わない。でも、愛情を持って接していることは理解してくれていると思う。その信頼感が勝負の最後に重要になってくる気がするんだ」。こういう“調教”もあるのだと目からウロコが落ちる思いだった。

 迎えたローズS。4番人気のアニメイトバイオは集団のやや後方で折り合いながらレースを進めた。直線。前に馬の壁ができていたが、慌てることなくバラける瞬間を待った。

 残り200メートルで1頭分の隙間が空く。ためらうことなく飛び込むアニメイトバイオ。積み上げてきた信頼感が発揮された瞬間だった。先に先頭に立ったアパパネを捉えにかかる。しっかりかわした。最後は外から飛んできたワイルドラズベリーを頭差抑えた。

 これが重賞初制覇。後藤騎手がアニメイトバイオの背中でささやき続けた愛情が結実した。「いい競馬だったね。格別の1勝だよ」。後藤騎手は喜んだ。

 秋華賞は2着でアパパネの3冠に待ったをかけることはできなかったが、力を最大まで引き出しての敗戦と筆者の目には映った。

 独特の感性を持っていた後藤騎手。アニメイトバイオの背中で笑顔を浮かべていた姿は今も忘れることができない。
(C)スポーツニッポン