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【追憶の札幌記念】14年ハープスター ゴールドシップとの対決に場内ぎっしり 完調手前でも勝った

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リラックスした表情を見せるハープスター
 その日は朝から雰囲気が違っていた。JR桑園駅に下り立ち、札幌競馬場への無料送迎バスに乗ろうとしたところ長蛇の列。何本か、バスを見送らなければ乗車できない状況となっていた。

 バスを諦めて、歩いて競馬場に向かうと、周辺道路は大渋滞で車はピクリとも動かない。あとで聞くと、地下鉄二十四軒駅の送迎バスも同様の状況だったという。

 ファンの興味はただひとつ。「ハープスターとゴールドシップの激突」にあった。桜花賞の歴史に残るような決め手で牝馬1冠を制したハープスターが、いよいよ古馬とぶつかる。ゴールドシップは前走で宝塚記念連覇を決めており、まさに横綱の風情が漂っていた。

 徹夜組1190人。最終的な入場者は4万6097人。場内はどこへ行っても人、人、人。函館開催だった前年と比較して520.5パーセント(!)という超ド級の大盛況だった。

 14頭がスタートを切る。最後方はゴールドシップ。その前にハープスターがいた。有力2頭は後方でバチバチとけん制し合った。

 残り800メートル。ハープスターが動いた。川田将雅の誘導で、外から位置を上げていく。ゴールドシップも追いかけた。横山典弘が手綱を激しく動かし始めた。

 4コーナー。外の4番手にハープスター、5番手にゴールドシップ。もう2頭だけの世界だった。直線を向いて先頭に立つハープスター。追うゴールドシップ。ハープスターが2馬身差をつけた。しかし、しぶとく差を詰めていくゴールドシップ。札幌競馬場では聞いたことのない大歓声の中、ハープスターが4分の3馬身、先んじてゴールした。

 川田の額にはびっしりと汗が浮かんでいた。「向正面でゴールドシップの位置を確認して、ハープスターのリズムで上がっていけた。あんなに長く先頭でいたのは初めて。びっしり追った」

 会心の勝利だったが、決して順調な調整過程ではなかった。オークスは2着だったが、レース中に左前脚の蹄鉄が外れかけた状態だったことが分かった。放牧先でも蹄の状態はスキッとしてこなかった。ノーザンファームの吉田勝己代表は「ぎりぎりの状態。よく間に合った」と打ち明けた。

 最終追いでも左前脚を落鉄していた。心のどこかに不安を抱きながらレースへと送り出したが、馬がその不安を振り払ってくれた。

 松田博資師は「今の状態でこれだけ走る。もう少しパンとしたら、もっと走るよ」。決して完調ではなかったことを認めつつ、馬の底力に最敬礼した。

 結果的に、これがハープスターの最後の白星となった。期待された凱旋門賞は6着に終わり、その後も白星から遠ざかった。だが、不安を抱えた中でゴールドシップとのマッチレースを制した、この一戦は札幌のファンの胸の中に、いつまでも輝き続けるに違いない。
(C)スポーツニッポン