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夏は牝馬? 夏は芦毛? 競馬界の“都市伝説” JRA競走馬総合研究所で聞いてみた

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JRA競走馬研究所の(左から)高橋佑治さん(運動科学研究室)、加藤智弘さん(企画調整室)
 ◇夏競馬企画「夏リポ」

 「夏は牝馬」。ファンなら一度は耳にしたことがある夏競馬の格言。果たしてこれは迷信か、事実か。今夏の水曜企画「夏リポ」は記者が夏に関するテーマを考え、関係者に質問をぶつけて深掘りする。第7回は東京本社の出田竜祐(44)が、栃木県下野市にあるJRA競走馬総合研究所へ。企画調整室の加藤智弘室長と、運動科学研究室の高橋佑治研究役に取材し、競馬の都市伝説!?に迫る。

【1 夏は牝馬を聞いてみた】

 「夏は牝馬」。夏競馬シーズンになると、ファンの間でしばしば語られるこの格言は本当なのか?JRA総研では過去にその実態を調べたことがある。牝馬限定戦を除く平地競走(02〜10年)を対象に、季節ごと(春夏秋冬を3カ月ごとに区分)の複勝率を分析(図1)。芝、ダート、競馬場を問わず、7〜9月は牝馬の成績が向上していることが明らかになった。高橋研究役は「これは10年以上前、日本ウマ科学会で発表したものですが、夏は牝馬の成績が上がるのは本当でしょう」と妥当性を認める。

 では、なぜ夏に牝馬は好走するのか?「牝馬は牡馬より暑さに強いのではないか」という仮説のもと、熱中症の発症率比較したところ、意外な結果が出た。むしろ牝馬の方が熱中症にかかりやすく、暑熱耐性が高いとは言えなかったのだ。そのほか、季節による走速度や馬体重の変化など、さまざまな角度から検証が行われたが、理由の解明に至っていない。

 高橋さんは一つの可能性として「管理のしやすさ」を挙げる。「牝馬は春先から6月くらいまで性周期が回り、いわゆるフケ(発情)の影響で人工的な管理が難しい。それが終わり、7月以降は飼養管理がしやすくなるのではないか、と感じる部分はあります」。ただし、それを裏付けるデータはまだないという。

 科学ではまだ解明されていない格言の謎。しかし、高橋さんは馬券を購入するファンの“肌感覚”に敬意を払う。「凄いですよ。長年レースを見ていて、“あれ、もしかしたら夏は牝馬の方が強いかもしれない”と自然と感じていたんですから」。競馬のロマンと科学の探究心。その交差点にある「夏は牝馬」という格言は、昭和から令和の今夏まで受け継がれている。

【2 夏は芦毛を聞いてみた】

 真夏の炎天下、黒いシャツを着て出かけたことを後悔した経験はないだろうか。日光を吸収しやすい黒と、反射する白。そんな発想から、競馬界には「夏は芦毛(を狙え)」という、やや都市伝説めいた格言も存在する。

 この説はどうか。JRA総研では15〜19年の6〜9月におけるJRA全レースを対象に、毛色別に複勝率を比較したことがある。その結果、芦毛(白毛含む)は22・1%。鹿毛(22・0%)、栗毛(21・2%)、黒鹿毛(21・8%)と、他の毛色との間に有意差は見られなかった。また、毛色ごとの熱中症の発症率を分析(図2)したが、こちらも偏りは見られなかった。

 高橋さんは「オーストラリアの文献で、ドッグレースでは毛色の濃い犬の方が薄い犬よりもレース後の直腸温が高い、という報告がありました。このような調査は馬では行われていませんが、クロスカントリーのような長距離を長時間走るような競技だと毛色がパフォーマンスに影響を与えることもあるかもしれません」と話す。

 ただし、競馬という競技の特性を考慮すると、話はそう単純ではない。「競馬の場合、レース直前まで待避所で待機して、あまり直射日光を浴びませんし、走る時間自体1分半から2分程度。その間に毛色によって熱の吸収量が変わるかどうか、パフォーマンスとの関連は正直なところ、分かっていませんね」。

 今夏の函館では白毛の新アイドル候補、マルガがレコードVの衝撃デビューを飾り、にわかに注目を集めそうな「夏は芦(白)毛」の格言。信じるか信じないかは、馬券を握るあなた次第だ。

【JRA競走馬総合研究所 “馬専門”として1959年設立】

 JRA競走馬総合研究所は、スポーツ科学、スポーツ障害、伝染病対応に加え、競走馬の生産や育成など、競馬を支える多くのテーマの研究を担うJRAの付属機関。1959年に「競走馬保健研究所」として設立された。現在、1課5室(総務課、企画調整室、運動科学研究室、臨床医学研究室、微生物研究室、分子生物研究室)に67人の職員が勤務。福島県いわき市には“馬の温泉”で知られる競走馬リハビリテーションセンター、北海道浦河町の日高育成牧場には生産育成研究室も設置されている。

 とりわけ分子生物研究室はウイルス性疾患の研究で国際的な評価を受け、馬インフルエンザと馬鼻肺炎のWOAH(国際獣疫事務局)リファレンスラボラトリーに指定されている。

 加藤室長が束ねる企画調整室は、研究者の立案した研究計画の遂行をコーディネートし、成果公表までをサポートする中枢部門。獣医師系学生を対象とした実習や競馬関係者向け講演会なども手がけている。「馬専門の研究所として、研究を世界に発信していくことが、私たちの責務だと思っています」と加藤室長。競馬の未来を見据え、研究にいそしむ日々だ。

【牡牝混合古馬重賞 牝馬が3連勝中】

 夏の新潟は関屋記念のカナテープ、アイビスSDのピューロマジックと開幕から2週連続で牝馬が重賞V。アイビスSDは20年から牝馬が6連勝となった。牡牝混合の古馬重賞は小倉記念のイングランドアイズから牝馬が3連勝中だ。今週はCBC賞に連覇を狙うドロップオブライトなど牝馬6頭が登録(レパードS、エルムSは登録なし)。過去5年で牝馬が3勝のG3だけに、馬券の対象からは外せない!?
(C)スポーツニッポン