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経験はアドバンテージ 馬券回収率を向上させた香港での“気づき”

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クイーンエリザベス2世カップを制したタスティエーラ(香港ジョッキークラブ提供)
 日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は栗東取材班の田井秀一(32)が担当する。4月末の香港チャンピオンズデー出張をきっかけに、馬券の回収率が劇的に向上した理由を考察する。

 普段、当欄では引退競走馬支援活動を中心に取り上げてきたが、今回は馬券ファンに伝えたいことを一つ。記者の回収率を劇的に向上させた香港出張での“気づき”を記したい。

 チャンピオンズデー(4月27日、シャティン)は取材のため、1週間の滞在出張。5年半ぶりの当地だったが、空港からホテルまでの道中は「あの道を曲がれば飲食店がある」という詳細までほぼ記憶通り。極度の方向音痴なので、自分の脳が心強かった。と同時に仮説が浮かび上がる。記憶に優れたサラブレッドにとっても“一度来たことがある”経験値は相当なアドバンテージなのではないか。

 その仮説を裏付けるように、クイーンエリザベス2世Cをタスティエーラで制した堀師は「馬にとって新しい環境に順応するのはハードルが高い。私の厩舎でも初の遠征で勝てたのはモーリスしかいない。昨年末(香港カップ3着)の経験が大きかった」と勝因を語った。チェアマンズSP2着の僚馬サトノレーヴも昨年末の香港スプリント(3着)から着順を上げた。

 同じく2頭を遠征させた杉山晴厩舎はルガルが2度目の香港。馬場調教では初の海外に戸惑うガイアフォースを先導するシーンも見られた。杉山晴師も「安心して見ていられる。ガイアフォースにとっては本当に心強い存在」と目を細めていた。ルガルも香港スプリント11着→チェアマンズSP5着と明確にパフォーマンスを向上させた。

 一方のガイアフォースはチャンピオンズマイルで9着敗戦も、帰国初戦の安田記念(2着)で即逆襲に成功した。新しい環境に順応しようとすることで心身が成長するのは関係者からよく聞かれる話で、慣れた競馬場に戻れば激走は必然。上半期の古馬G1は高松宮記念(サトノレーヴ)、ヴィクトリアマイル(アスコリピチェーノ)、安田記念(ジャンタルマンタル)、宝塚記念(メイショウタバル)で海外遠征から帰国初戦だった馬が優勝。メイショウタバルを担当する上籠助手も「ドバイ遠征がなければ今のタバルはいないと思う。(現地で)ソウルラッシュと一緒に調教させてもらったりして、精神面が凄く成長した」と証言する。

 世界を席巻する矢作師は「経験を積むんだから成長するに決まっていると思っていたけど、昔は海外に行くと帰ってきてもしばらくダメとか、逆にマイナスになることがあった。でも、今は違う。それは日本の調教技術、飼養管理の進歩だと思う。やっぱり“かわいい子には旅をさせろ”だよ」。これは年始あたりに聞いた言葉だが、今春のG1戦線はまさにその通りの結果になった。

 さて、香港出張以来、記者はこの仮説、いや真理を予想に落とし込み、◎候補がそのレースにおいて初体験することがあるかどうかをイメージするようにした。スポニチ名物の回収率を競う「記者ダービー」では5月以降の大逆転で上半期優勝。下半期も現在、首位を走っている。たぶん、偶然ではない。今後も現場取材で得られた、馬券検討に役立つ“気づき”を時々お届けできればと思う。

 ◇田井 秀一(たい・しゅういち)1993年(平5)1月2日生まれ、大阪府出身の32歳。阪大卒。道営で調教厩務員を務めた経験を持つ。19年春から競馬担当。netkeibaTVで「好調馬体チョイス」連載中。
(C)スポーツニッポン