ニュース詳細

ニュース一覧

芝砂の適性見極めのヒントは爪の形にあり!走る馬に共通する部分は「形が良くて打ちやすい蹄」

  • facebook
  • twitter
  • hatena blog
  • line
ミュージアムマイルを担当する上村装蹄師
 ◇夏リポ

 今夏の水曜新企画「夏リポ」は記者がテーマを考え、関係者に質問をぶつけて深掘りする。第4回は大阪本社の新谷尚太(48)が担当。サラブレッドの脚元を支える装蹄師にスポットライトを当てた。今年の皐月賞馬ミュージアムマイル(牡3=高柳大)の装蹄を担当する上村拡史装蹄師(39)に四季によっても変化する爪や、その形による適性を聞いた。

 馬のお仕事紹介サイト「UMAJOB」で“馬の蹄をケアする靴屋さん”として登場するのが装蹄師。競馬は騎手や競走馬が表舞台に立つが、その名勝負を裏で支える縁の下の力持ちというべき職人だ。最高時速70キロ超で走る競走馬の蹄には1つあたり瞬間1・5トンもの負荷がかかる。競走馬の命を握っていると言っても過言ではない。

 栗東トレセンには現在、装蹄所が32軒。装蹄師は経営者(親方)を含む約50人が従事している。開業3年目の上村装蹄師は高柳大厩舎に所属する今年の皐月賞馬ミュージアムマイルを担当。同厩舎で昨年のヴィクトリアマイルを14番人気で制したテンハッピーローズも手がけた。年間8000頭近く生まれるサラブレッドの脚元は当然ながら一頭一頭、異なる。走る馬に共通する部分は何か?「形が良くて打ちやすい蹄だった。(爪の)バランスが良く、走る馬の蹄のイメージを勉強する機会になりました」と語る。

 装蹄師の仕事はトレセンの開門時間(夏は午前5時)から担当の厩舎へ回り始める。曜日によって追い切り頭数に変化はあるものの、定期的に装蹄を行っている。午後も厩舎を回って、くまなくチェック。少しでも脚元への違和感があれば、その馬に適した装蹄を行うことでケアを怠らない。

 JRAでは1月から12月末まで休みなく開催が続く。特に猛暑が厳しい夏場と厳寒期の冬場では競走馬の爪が大きく変化するという。気温が低い冬場は爪が伸びにくくなり、乾燥するため爪が硬くなりやすい。逆に夏場は気温が高い上に湿気が多いため、爪が伸びるのが早くなる。夏と冬の装蹄方法の違いについては企業秘密だそうだが季節や芝、ダートによっても変化を持たせるという。

 爪の形が馬券のヒントになることも。「芝のレースは爪が寝ている方が向いている。逆に爪が立っているタイプはダートの適性が高い馬が多く見られると思います」と傾向を教えてくれた。芝で好走する馬は蹄の面積が広く、パワーを求められるダートは爪が深い馬の方がよりベターだと考えられる。予想する上で取捨が悩ましい初ダートや初芝の馬、デビュー戦を迎える若い2歳馬はパドックで爪の形をガン見すれば、適性をつかめるかもしれない。

 上村装蹄師は弟子と2人で装蹄所を切り盛りしている。装蹄業界の現状について「人手不足だと感じています。若い子たちに競馬に触れてもらって、一人でも多くの方に装蹄師の仕事の素晴らしさを伝えていければと思っています」と先を見据える。改めて、競走馬を裏で支える装蹄師の大切さを知った。その仕事が今まで以上に注目され、競馬界全体がさらに発展していくことを願いたい。

 【取材後記】

 弟子の樋沢要さん(22)は装蹄師になって今年で4年目。この業界を志したきっかけを聞くと「通っていた乗馬クラブで装蹄師を初めて見て、競馬を裏で支えている装蹄師に憧れを抱きました」と教えてくれた。

 師匠とともに切磋琢磨(せっさたくま)しながら作業を続ける日々。装蹄師として心がけていることは「(以前に働いていた)生産牧場でも一つのミスが(競走馬に)影響すると肌で感じました。妥協することなく一日一日、スキルを磨いていきたい」。親方のアドバイスに耳を傾け、時には自ら考えたアイデアを打ち明ける。その2人の関係性がビッグレース制覇にもつながった。まだまだ道は始まったばかり。今後、2人の目指す夢を聞くと、上村装蹄師が「人から信用される装蹄所をつくりたい」と言えば樋沢さんも「どの厩舎にも頼ってもらえる装蹄所にしていきたいです」と思い描く理想像は一致する。

 装蹄師になるには日本装削蹄協会が主催する装蹄師認定講習会を受講して資格を取得。来年度の講習会募集は今月から始まっており、15日(消印有効)まで願書を受け付け中。樋沢さんは装蹄師を目指す人へ「高度な技術が必要で難しいことも多いけど、自分が(蹄鉄を)打った馬がレースに出走した時は凄く喜びを感じることができる職業だと思います。一人でも多く、装蹄師を志してほしいですね」とエールを送る。装蹄師は人と競走馬と真摯(しんし)に向き合い、そして人との触れ合いが大事な職業だと感じた。 (新谷 尚太)
(C)スポーツニッポン