ニュース詳細

ニュース一覧

【追憶のダービー】98年スペシャルウィーク 武豊、初のダービー制覇 「来年も勝ちたい」言葉は現実に

  • facebook
  • twitter
  • hatena blog
  • line
98年ダービーを制した武豊とスペシャルウィーク
 言わずと知れた、武豊騎手、初のダービー制覇がこの一戦だ。

 今となっては笑い話でしかないが、当時すでに実績十分の武豊騎手が9度挑戦してなぜか勝てなかったのがダービー。「武豊は一生、ダービーを勝てずに終わるのではないか」という声すら上がっていた(本当)。当時まだ30歳にもなっていないのに、である。

 あれから武豊騎手はスペシャルウィークを含め、6度もダービーを勝つ。当時、悪いうわさ話をした皆さん、聞いてますかー(苦笑)。

 最初から勝つことが決まっていたかのようなレースだった。3枠5番から互角のスタートを切ったが、スッと下げたスペシャルウィーク。道中は10番手のイン。流れに乗り、脚を温存した。

 4コーナーを迎える。直線を向いた。ポイントは、ほぼここだけ。どう抜け出してくるかだ。内にいた馬が下がるのを確認し、やや内に進路を向けながら抜けた。前が空く。これでもう勝負は決したようなものだ。

 先に先頭に立ったセイウンスカイを残り250メートルでかわす。そして一気に前に出た。「さあ武豊、これはセーフティーリード」。実況の後押しに応えるように、さらに差を広げた。5馬身差、圧勝。武豊はスペシャルウィークの首をポンポンと叩いてねぎらい、そして右腕を派手に振り下ろした。

 冷静だな、と思ったのは、圧倒的なリードを取っても、フィニッシュするまでガッツポーズを見せず、騎乗姿勢を崩さなかったことだ。

 そのことを武豊騎手はスポニチ独占手記で、こう記している。「ダンスインザダーク(96年フサイチコンコルドの2着)のことが頭にあります。最後まで追い続けました」

 ダービーは運がなければ勝てないもの。ある程度、達観しているのかと思いきや、決してそうではなかった。武豊騎手は同じく手記にこう記していた。

 「僕なりにこれまで悪戦苦闘し、そろそろ勝ってもいい時期ではと思っていました」

 「勝つためのイメージを作ってきました」

 “悪戦苦闘”などという言葉は武豊騎手から最も遠いものだと思われていた。しかし、天才も人知れず悩み、苦しみ、努力を重ねていたのだ。そのことをダービーでちらりと明かす。それもまた武豊騎手らしい気がした。

 この1勝がどんなにうれしかったかを示す例を1つ挙げたい。園田競馬場では通算2000勝以上の騎手による騎手招待競走「ゴールデンジョッキーC」を毎年、行っている。

 騎手はオリジナル勝負服を身にまとうのだが、武豊騎手はスペシャルウィーク騎乗時に着た勝負服「紫、白のこぎり歯形」を着用するのだ。実によく似合うし、ファンもスペシャルウィークを思い出してうれしいのだが、武豊騎手自身も忘れられない勝負服なのだということがよく分かる。

 98年の話に戻る。武豊騎手は手記をこんな風に締めくくっている。「1度勝てば、もう一度勝ちたくなる。来年に向けて、もう欲が出ています。それがダービーなのかな。勝てて初めて思います」

 分かる人はもう分かっただろう。翌年、武豊騎手はアドマイヤベガでダービー連覇を果たす。初めての歓喜の瞬間に感じた“欲”を、しっかりと実現してみせたのだ。
(C)スポーツニッポン